鉱山事業の概要
三井金属は、1874年に三井組が岐阜県神岡地区で鉱山経営を始めたことをルーツとし、以来150年以上にわたって鉱山事業を行っています。南米のペルー共和国ではサンタルイサ鉱業が1968年より自社開発の鉱山としてワンサラ鉱山の操業を行っており、55年以上の操業実績を有しています。加えて、2006年にワンサラ鉱山の支山としてパルカ鉱山を開山し、現在は2つの鉱山を操業しています。
日本各地でも鉱山の開発・操業を行ってきましたが、鉱量の枯渇等の理由により、現在は鉱山のほとんどが休廃止鉱山となっています。
鉱山事業におけるサステナビリティの取組み(サステナビリティ活動計画)
鉱山事業は周辺環境や地域コミュニティに与える影響がとくに大きいと認識しています。この認識のもと、鉱山事業に係る環境・社会課題を特定し、重点的に取組みを進めていきます。
2020年度に「鉱山事業におけるサステナビリティ活動計画」を策定しました。当社のマテリアリティに基づき、ICMMの基本原則やSASBなどにおいて指摘されている鉱山事業のリスクを各鉱山事業所で洗い出し、取組みを項目として集約しました。鉱山事業のマネジメントでは本計画に示すKPIを達成するために、年度ごとに進捗管理を行っています。
2022年度の進捗状況
国内の事業所では概ね計画通りに取組みが進みましたが、ペルー共和国の事業所ではCOVID-19等の影響により一部計画が2023年度に持ち越しとなっています。
項目 |
コミットメント |
関連するSDGs |
目標(KPI) |
計画(2023年度) |
鉱山事業のマネジメント(ESGリスク管理の>
仕組み)
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マテリアリティ項目の適切なマネジメントにより、鉱山事業特有のESGリスクを低減
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G3,G4,G6,G7,G8,G9,G12,G13,G15,G16 |
1. 鉱山事業所(休廃止鉱山含む)において「鉱山事業におけるサステナビリティ活動計画」に基づき、マテリアリティに紐づく取組みを実施
2. 資本比率50%超の操業鉱山において鉱山事業の人権・環境リスク調査を実施
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1. 2023年度の取組み状況の進捗調査、フォローの実施。次年度計画の検証
2. 2022年度の調査結果レビューと、是正措置の検討
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温室効果ガス排出
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1. 集積場周辺へ植林の実施(日本)
2. 露天採掘跡地での植林に向けた土壌づくり(日本)
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G13,G15
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1.
赤石鉱山にて2023年までに1,000㎡に植林を実施
赤石鉱山にて2025年までに累計2,000㎡に植林を実施
2.露天採掘跡地での植林に向けた土壌整備の施策を実施
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1. 2025年目標(KPI)達成に向けて、追加植林箇所を検討(※)
2. 客土・植栽を継続実施
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エネルギー管理
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再生可能エネルギー導入の検討
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G7,G13
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再生可能エネルギー発電所の新規建設に向けた調査の完了
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太陽光発電の経済性評価実施(ペルー) |
水の管理
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1. 酸性水
酸性水の発生量削減(ペルー)
2. 水リサイクル
- 水リサイクル率の向上(ペルー)
- 坑内水のリサイクル利用推進(日本)
3. 休廃止鉱山
休廃止鉱山の環境リスクの適切な管理(日本)
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G6,G15
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1. 地表水浸透防止対策の実施
- 水リサイクル率改善計画の策定
- 工水不足80%改善、排水負荷27%軽減
3.環境事故ゼロ
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1.
- コンサルを使った水文地質調査の実施
- 地表水流入地点の特定
- 坑内清濁分離計画の立案
2.
- リサイクル可能な水の評価と使用可能性の検討
- 設備計画の立案
- 水使用量の計測開始
- 坑内沈砂池の管理、円山濁水の集水
3.
- 坑内水位の管理継続
- 必要に応じた老朽化更新工事の実施
- 坑内水位の確認とレベル維持
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廃棄物と有害物質の管理
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1. 廃棄物
廃棄物削減計画の実行(ペルー)
2. 鉱さい集積場
鉱さい集積場の管理を強化し、リスクを最小化(ペルー/日本)
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G6,G12,G15 |
1. 発生廃棄物の解析に基づき、削減計画を作成・実行
2.
- 安定性モニタリングシステムの強化と運用
- 事故シミュレーションの完了
- 新耐震基準(700gal)への対応完了
- 管理集積場のリスク最小化計画の立案
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1. 計画に沿った削減活動の実施
2.
-モニタリング機器の設置と計測の開始 (ペルー)
- 事故シミュレーションの実施 (日本)
- 事故シミュレーションのコンサル選定 (ペルー)
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生物多様性への影響
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統合報告書 三井金属グループ サステナビリティへの取組み 08 生物多様性への影響 |
安全衛生
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粉塵対策の強化(日本)
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G3 |
溶接ヒューム用の集塵機の設置 |
- 防塵マスクのフィッティングテストの標準化
- 必要に応じ溶接フューム集塵機の設置検討
- 熱中症対策も併せてレインボーミスト増設検討 |
人権 |
人権方針に沿った警備体制の構築(ペルー)
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G17 |
人権方針に沿った警備体制の構築に向けた施策の実施
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コンサルを使った「安全と人権に関する自主原則」に沿った事業リスク評価実施
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地域コミュニティへの貢献 |
コミュニティとのエンゲージメントに基づく活動を実施し、インパクトを把握(ペルー)
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G3,G4,G7,G8,G9 |
地域コミュニティへのインパクトの把握
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注力すべき項目の決定、コンサルを使ったインパクト評価実施
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※赤石鉱山では、捨石の安全な管理を目的に捨石場の新設を進めており、建設用地として事業所敷地内の森林の伐採・整地を行っています。植林については計画通り進めており、2025年目標(KPI)達成に向けて、追加植林を検討しています。
操業鉱山の管理
ワンサラ鉱山は、標高約4,000mのアンデス山脈の山中に位置します。1968年の開山以来、半世紀以上にわたって亜鉛、鉛、銅の精鉱を生産し、金属資源の安定供給に貢献しています。
ペルー共和国では、1993年4月に環境法が公布され、既存の操業鉱山に対する義務としてPAMA(環境対策プログラム:Programa de Adecuación y Manejo Ambiental)が規定されました。ワンサラ鉱山では、1996年にペルー第一号となるPAMAを提出し、翌1997年に認可を取得、2002年にPAMAに基づいた環境対策を完了させ、操業による周辺環境への影響を最小化しています。また、2008年にはISO14001とOHSAS18001の認証を取得し、ISO14001:2004の2015版への移行、ISO45001:2018の認証取得も完了しています。
PAMAに規定する項目
- 坑内酸性水処理
- 排水リサイクル
- 集積場安定化調査
- 選鉱場破砕工程集塵設備の整備
- 生活排水・廃棄物の処理
- コンタイコチャ湖再生
- 汚染土壌処理
コンタイコチャ湖はワンサラ鉱山の下流に位置する湖で、以前は鉱山が排出した酸性水により生物が住めなくなっていました。サンタルイサ鉱業は酸性水処理による水質の改善に加え、堤防の嵩上げによる酸性沈殿物の水封や覆土植栽、緑化といった環境復元に取組み、現在は川鱒や水鳥の住む水辺環境が再生されています。
閉山計画
鉱物資源は限りある資源であり、採掘終了後の環境対策は周辺環境維持のために不可欠です。しかしながら、歴史的に多くの鉱山が採掘後に放棄され、周辺の環境に負荷を与えてきました。
三井金属では閉山後に生じる可能性のある環境・社会リスクを最小化するため、対象となる鉱山において閉山計画の立案と最終閉山費用の保証または積立を実施しています。
閉山計画では、以下の項目を目標として定めています。
・環境保護の優先と現地環境法令の遵守
・公害防止を目的とした地形安定化と排出物の物理的・化学的な封じ込め
・技術革新や新技術の導入が可能となる汎用性のある閉山計画の立案
・閉山後の土地有効活用と保全を目指した環境復元
・操業の影響を受ける地域コミュニティの社会的、経済的、組織的な発展のための経営施策
ペルー共和国では、2003年10月に鉱山閉山法が公布され、操業鉱山および鉱山開発プロジェクトは事業終了後の閉山計画の提出と、計画に基づく閉山費用の積立が義務付けられました。
ワンサラ鉱山ではこの閉山法の運用開始に先立ち、2004年に自主的に閉山事前調査を実施し、閉山にかかる評価と計画の立案を開始しました。パルカ鉱山においても閉山計画の立案を行い、2009年にワンサラ鉱山、パルカ鉱山の双方で閉山計画の政府認可を取得、その後、複数回の更新を行っています。
また現在、両鉱山において酸性水発生の原因となる廃石(ズリ)の撤去、地表水侵入経路の閉鎖、坑内排水の清濁分離、捨石集積場の覆土植栽などといった閉山事前工事を進めており、定期的な行政機関による監査を受けています。
ワンサラ鉱山とパルカ鉱山で閉山工事の前倒し実施に取り組んでいます。ワンサラ鉱山では、過去の操業で発生した廃石(ズリ)の撤去と覆土植栽を進めています。
左:覆土植栽実施前(2007年6月3日) 右:実施後(2019年11月21日)
休廃止鉱山の管理
採掘を休止・中止した休廃止鉱山においても、鉱山保安法及び環境関係法令に従い、周辺環境の維持のための管理を継続して行っています。
特に、鉱石の採掘に伴って発生した鉱さいや、雨水と金属成分を含有する岩石の接触により、重金属を含む酸性水が発生しないように、管理対象地の定期的な巡視・点検や、周辺水質のモニタリング、坑廃水処理設備を用いた水質浄化等、様々な鉱害防止対策を実施しています。
採掘を終了した休廃止鉱山でも、定期的に巡視・点検を行い、地形の陥没等で人が転落する危険がないか安全性の確認を行います。
水の管理
ワンサラ鉱山では黄鉄鉱(硫化鉄鉱物)を多く含む地質条件から、坑内で酸性水が発生します。
サンタルイサ鉱業では、日本での鉱害防止技術を応用し、1998年にペルーで第一号となる鉱山付属排水中和プラントを建設しました。その後も中和沈殿槽とクラリファイヤーの増設、石灰添加ポンプ改良、酸化用ブロワーの大型化等改善を重ね、現在も安定して酸性水の中和処理を行っています。
また、過去16年間にわたって地表に積み置いた黄鉄鉱を含む廃石(ズリ)の撤去を続けており、雨水との接触を断つことで酸性水の発生を抑制しています。
鉱山からの排水は24時間体制でモニタリングを行い、常に環境基準値以内のpHと流量で河川に放流しています。加えて、3日ごとに自主的な採水分析を実施し、排水中の重金属の濃度を確認しています。また、ワンサラ鉱山の周辺では、関連法規に従って14箇所で週1回の採水を行い、水質を検査しています。
さらに、ワンサラ鉱山の選鉱場では水リサイクルによる再生水の利用を進めており、水使用量の削減にも努めています。
ワンサラ鉱山付属排水中和プラント。中和処理を行い、環境基準値を満たすpHと重金属含有量となった上澄水は川に放流し、沈殿物は集積場に送っています。処理能力は15m3/minとなっています。
鉱さい集積場の管理
鉱石から有用な鉱物を抽出する工程において、鉱さいと呼ばれるスラリー状の廃棄物が発生します。この鉱さいを管理・保管するための施設を鉱さい集積場(テーリングダム)と呼びます。昨今、ブラジル連邦共和国やカナダで決壊事故が相次ぎ、大きな環境問題・社会問題となっています。三井金属グループでは集積場の管理を鉱山事業の重要なリスクの一つと位置づけ、所在国の技術指針、マニュアル等に則って管理しています。
日本
日本国内では、2011年の東日本大震災によっていくつかの集積場で流出事故が発生したことを契機に、経済産業省により2012年に「鉱業上使用する工作物の技術基準を定める省令の技術指針(以下、『技術指針』。)」が改定されました。これは世界的にみて高い地震リスクを有する日本において、集積場の安全を確保するために示された重要な指針であり、三井金属はこの技術指針に沿って管理を行っています。
日本国内で三井金属が管理する13の集積場(下部リスト参照)のうち、特に規模が大きい3つの集積場については、1995年に発生した阪神淡路大震災を契機として、1998年に自主的な安定性解析を行い、将来にわたって考えられる最大級の強さの地震動(レベル2地震)に耐えられることを確認しています。
2012年の技術指針の改訂にあわせて、2015年までにこの技術指針の評価対象となる5つの集積場について安定性解析を行い、同じくレベル2地震に対して十分な耐震性を有することを確認しました。さらに、2017年から技術指針の対象とならない5つの集積場についても調査を進め、うち4つの集積場について耐震性を確認しました。残り1つの集積場について2019年度の調査で不適合と判明したため、2021年度に対策工事を完了しました。
集積場の安定性解析では、堤体への浸透水の影響を調べるために、観測井を掘削して地下水レベルの測定を行います。
ペルー共和国
ペルー共和国では、エネルギー鉱山省が管理方針およびマニュアルを規定しており、これに基づいて集積場の設計、管理、安定性評価を行っています。
ペルー共和国は日本と同じく地震リスクの高い国ですが、これまでに実施した安定性評価の結果、ワンサラ鉱山の集積場は475年確率で最大規模の地震動が発生した場合でも安定性に問題のないことが確認されています。また、社内技術者が堤体水位のモニタリングを1ヶ月ごとに実施するほか、3ヶ月ごとに外部専門家による堤体水位及び傾斜計測定を行うなど、常に状況をモニタリングし、安全を確保しています。
ワンサラ鉱山のチュスピ集積場では、2022年に再度、安定性解析を行い、大規模な地震動にも耐えられることを確認しています。
三井金属が管理する集積場の一覧
英国国教会年金委員会およびスウェーデン国立年金基金道徳委員会からの要請に基づき、2019年6月に鉱さい集積場(テーリングダム)に関する情報を開示しました。
Information Concerning Tailings Dam management (英語のみ)
警備会社の起用
一部の事業所では、従業員の安全確保のため、警備会社を起用しています。警備における武器の使用には人権侵害の潜在的なリスクがあることを認識しています。
そのため、警備員の配置に際しては、現地適用法令を遵守するとともに、「安全と人権に関する自主原則」等の国際的な原則を尊重し、三井金属グループ人権方針に基づいた警備体制を構築します。
また現在、ペルー共和国の事業所においてサステナビリティとESGマネジメントサービスを専門とするコンサルタント会社と契約し、「安全と人権に関する自主原則」に沿った事業リスク評価を進めています。
地域コミュニティとの関わり
サンタルイサ鉱業は地域コミュニティとの信頼関係に基づく共存共栄を目指して、地域コミュニティへの継続的援助に努めてきました。また、さらに実効的なコミュニティ支援を実施するため、長年にわたって支援を続けてきた牧畜分野を注力すべき項目として選定し、インパクト評価を進めています。
ワンサラ鉱山とパルカ鉱山では関連自治体との間で、地域コミュニティを支援することを骨子とした地域援助協定を締結しています。これまでの地域支援は多岐に渡りますが、直接的な地域コミュニティ支援およびインフラ投資を通じた間接的な利益の還元に大別されます。
地域コミュニティ支援 |
社有水力発電所からの電力無償提供
教育支援
- 学用品、パソコン・タブレット、図書の寄贈
- 職業訓練、就業支援
- 小学校施設の建設
医療支援
- 医療用機材の寄贈
- 各種検診の無償実施
- COVID-19対策として救急車、酸素プラント、消毒液、マスク等の提供
農畜産業支援
- 家畜の品種改良、種子の配布
- 農業用トラクターの寄贈
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インフラ投資 |
道路建設
- カタック道路(太平洋岸~ワンサラ鉱山)
- パルカ・チキアン道路(パルカ鉱山~チキアン町)
地域インフラの整備
地域住民の居住環境改善
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ポクパ村での橋の建設。インフラ投資では、雇用を創生することで直接的な支援を行うほか、地域経済の活性化による持続的な発展が期待されます。
農畜産業の支援は地元産業を活性化する重要な手段です。専門家や獣医による技術支援を行うほか、家畜の品種改良のために牛の人工授精を行い、自社農場で繁殖させた種馬や羊を貸し出すなど、複数の協力を行っています。
ワジャンカ村への救急車の提供。COVID-19対策支援をはじめとする医療支援を行っています。
生物多様性
統合報告書 鉱山事業[PDF:1.59MB]
ペルー共和国サンタルイサ鉱業のCSR活動